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底が知れない史上最強マイラー
Contents
最強マイラーの称号
遅いデビューと連勝街道
マイル王へ
短距離界の頂点へ
展望
ドーヴィルでの快挙
その後
可能性
Chapter 7
その後
 アメリカに渡ってブリーダーズカップに参戦するのか?それとも日本でマイルチャンピオンシップに出るのか?
 偉業を達成した感激の余韻に浸る間もなく、藤沢和雄は二者選択に迫られていた。
 海外遠征から帰国した馬には、白井で5日間の検疫を終えた後、3週間の着地検査が義務付けられている。そのため、「調整」という観点からすると、どうしても時間がかかってしまうのだ。仮に渡米するとすれば、出国検疫、輸送、現地での検疫などの問題ものしかかってくる。「調整不足」は避けられない状況であった。「時間が足りない」と考えた藤沢は、ブリーダーズカップを諦めた。
 マイルチャンピオンシップでのタイキシャトルは、渡米断念の鬱憤を晴らすかのように、圧倒的な強さを見せ付けた。過去最大の5馬身という差をつけ、2着以下をブッチ切ったのである。
1998年11月22日「マイルチャンピオンシップ(GI)」(京都芝1600)
1998年11月22日「マイルチャンピオンシップ(GI)」(京都芝1600)
フランスのGIを制覇した豪脚を披露し、マイルチャンピオンシップ2連覇を達成。
1998年11月22日「マイルチャンピオンシップ(GI)」(京都芝1600)
1998年11月22日「マイルチャンピオンシップ(GI)」(京都芝1600)
これで海外を含め5つ目のGI制覇。だが、華やかな結果の裏で徐々に……
年内引退が決まっていたタイキシャトルは、最後のレースにスプリンターズステークスを選んだ。誰もが「圧勝」を信じて疑わなかったが、単勝1.1倍の断然人気を裏切り、よもやの3着に敗れてしまう。レース当日に引退式が行われる予定になっていただけに、中山競馬場は何かしらけたような空気に包まれた。
1998年12月20日「スプリンターズステークス(GI)」(中山芝1200)
1998年12月20日「スプリンターズステークス(GI)」(中山芝1200)
まさかまさかの3着。その光景に中山競馬場の大観衆は呆然とたたずんだ。
このスプリンターズステークスは「大番狂わせ」と見られているが、当事者たちにとってはある種の予感があったという。その予兆は、すでにマイルチャンピオンシップの時点で見えていたらしい。
5馬身差の圧勝劇を演じたように、表面上、マイルチャンピオンシップは完璧なレースだったように思える。しかし、目に見えないところで、馬も人ももがき苦しんでいたのだ。
外国の競馬では馬体重が発表されないので細かい推移はわからないが、マイルチャンピオンシップのときは安田記念に比べて14キロも体重が増えていた。藤沢だけでなく岡部も「太い」と感じていたという。その原因は、フランス帰りによる調整不足ではなく、馬が競馬をしたくなくなっていたことにあるらしい。
「明らかに走るのを嫌がるそぶりを見せるようになっていたんですよね。それが顕著になったのは、マイルCSの直後でした。レース後、耳を絞って反抗していましたから……マイルCSもスプリンターズSも明らかに太かったんですが、調整段階から馬の気持ちが走る方向に向いていなかったように、自分で体を作るのを拒否したからでしょう。もし、シャトルが人間の言葉を話せたなら、“もう引退させてくれ”と言っていたかもしれません」
 と、藤沢は振り返る。
1998年12月20日「引退式」(中山競馬場)
1998年12月20日「引退式」(中山競馬場)
これが最後の競馬場。馬自身が引き際を知っていたかのようだった。
 岡部幸雄というジョッキーは、「馬優先主義」で知られているように、「馬に負担をかけない競馬」を身上としている。結果、「ハナ差でもなんでも、勝ちさえすればいい」ということに落ち着く。とすれば、マイルチャンピオンシップでの独走劇は合点がゆかない。もしかすると、それくらい思いっきり走らせなければ、負けてしまう可能性があったのではなかろうか?つまり、キッチリ「ハナ差」で勝てるだけの心身ともに充実した状態になかったからこそ、能力を全開にしなければならなかった、と考えられるのだ。
 スプリンターズステークスでは、マイルチャンピオンシップより、体重がさらに6キロも増えていた。体が仕上がっていない上、気持ちが競走に向かわなくなっていたのである。あの敗戦は、陣営にとってある意味必然だったのかもしれない。
 それでも、国内のマイルGI2勝、フランスのGI制覇が評価され、タイキシャトルは1998年の年度代表馬に選出された。