年明けた98年、タイキシャトルの最大目標は、海外のGI制覇であった。狙いはフランスのGIジャックルマロワ賞。歴史的名牝ミエスク、種牡馬として1年だけ日本にリースされたGI5勝の名馬スピニングワールド、輸入されたヘクタープロテクターなどが勝ち馬に名を連ねている。
とはいえ、春シーズンは国内で走ることが決まっており、京王杯スプリングカップ、安田記念に使う予定になっていた。
手始めの京王杯はまさに圧巻だった。休み明けの不利などものともせず、いつものように好位からの競馬で楽勝したのである。
「終始馬なりであの強さ。海外のGIを狙えるような馬は、休み明けだろうとなんだろと、国内のＧ�仰�度ならあれくらいの競馬ができてしまうものなんだと実感しました」
と藤沢が言うように、改めてポテンシャルの違いが浮き彫りになる形であった。なお、シンコウキングの引退に伴い、鞍上には再び岡部幸雄が戻ってきている。
1998年5月16日「京王杯スプリングカップ（GII）」（東京芝1400）
久々だろうがなんだろうが、強い馬は強い。余裕の競馬で他馬を圧倒した。
続く安田記念は、折からの雨で馬場が「不良」まで悪化していた。スピードがウリのマイラーたちにとって、歓迎できない状況といわねばならない。しかし藤沢は、「天が与えた試練」、転じて「格好の予行演習の場」と考えることにした。
ジャックルマロワ賞が行われるドーヴィル競馬場は、ヨーロッパのコースとしては軽めの芝で知られているが、一雨くると、マイルで1分40秒台の決着になってしまうほどのタフな馬場になってしまう。
「もしここで負ける程度の馬なら、フランスに行っても結果は知れている」
と、パワー優先の舞台を想定していたのだ。
馬場が荒れても、タイキシャトルの強さは変わらなかった。粘りこみをはかる香港のオリエンタルエクスプレスを力強く交わし、そのままゴールに飛び込んだのである。まさに、「ねじ伏せた」というにふさわしい内容であった。
「これで胸を張ってフランスに行ける」
藤沢和雄は、ジャックルマロワ賞でも好勝負になると確信した。
1998年6月14日「安田記念（GI）」（東京芝1600）
分厚い泥が飛び散るほどの不良馬場も、タイキシャトルの脚を阻むことはできない。
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